経験豊富な技術者が語る貴重な情報


当社のメンテナンス部門担当の技術者は長年数多くの機械式時計修理・オーバーホールを手掛け、その手にかかると数十年前のアンティーク時計も生き返る程の技術力があります。

その経験豊富な技術者が語る貴重な情報です。

No.1 機械式時計のオーバーホール(分解掃除)は、使用後何年位で必要になるでしょうか?

この問題を考えるには、まず時計のメカニズムを理解する必要があります。
最大でも直径30mm(例外も有り)以下の面積に数百の(ミクロの精度で研削、研磨された)部品で組み上げられたムーブメントは、(一パイに巻き上げられたゼンマイを納めてある)一番車のゼンマイが解けてゆく力を利用して、それから大体が4個の歯車を伝って、アンクル(錨の形をしているのでそう呼ばれた)と言う部品まで力が伝えられます。
アンクルは、これまでの4個の歯車とは違い回転運動ではなく、定められた間隔の間で反復運動を繰返します。この反復運動は精度に影響を与える最も重要なパーツであるテンプを回転させます。(テンプは約270°から300°位の往復回転をします。)

テンプはアンクルの反復運動によって、一秒間に(ムーブによって違いはありますが)遅いもので5回転、速いもので10回転していますと言う事は1時間に18,000回~36,000回も回転している事になります。
近年のムーブメントは、一秒間に8回転するものが大半をしめています。尚テンプの回転数は多いほど(早いほど)精度は良くなるのですが、反面強いゼンマイを使い各歯車の回転も早くなることになるので、部品の減り、油の切れが早まる等の影響も多くなります。

これらムーブメントの歯車の軸は、受板で支えられ、軸受部には合成ルビーで出来た穴石がセットされています。その理由は(強いゼンマイの解ける力で回転している歯車)の軸部分の磨耗を防ぐ為に使われているのです。
さらにその軸と穴石に特殊オイルが注油されています。これも回転を円滑にして摩擦を減らす為です。(他の個所にも磨耗、摩擦の影響を受ける個所にはルビーが多く使われているのです)このように時計で一番重要な問題は、磨耗と摩擦です。(他に部品の破損等もありますが)従って、オーバーホールの時期は、注油された油の状態によって決定されるべきなのです。

それらは、

  • 注油された油の経年変化、消耗
  • 使用状態による油の変化、消耗
  • 外装(ケース、リユウズ等)の気密性の問題や破損による外部からの水分浸入、気温のよる油の消耗などが、ムーブメントに影響を与える事になるのです。

しかし多くのユーザは、急に遅れ出したり止まらない限り、なかなか修理に出さないです。さらに最近のムーブメントは非常に精度が高く作られている為にある程度油が減って来ても、少々の汚れ、サビ等が発生しても、動いてる事が多いのです、しかしその期間が永い程、部品が減ってしまったり、サビの程度がひどくなり、結果として、修理価格が多く掛ってしまう事になるのです。

従ってこれらの事を考えて少なくとも、2年~3年位の間隔で、専門店で時計の診断をなさる方が、ご使用の時計を長持ちさせることになるのではないかと思います。他にもメカニカルは複雑で奥深いものです。オートマチック機構やクロノグラフ、マルチカレンダー等の多機能時計などは、又故障原因も多種に亘ります。これらは、次回に述べさせて頂きたいと思います。

No.2 機械時計の精度について

●隙間(アガキ)の仕上がりが精度上重要
前にも説明しましたが、機械式ムーブメントの基本構造は、上下二枚の受板の間に全舞から動力を伝える3ヶの歯車と、エスケープメントと呼ばれる(雁木車、アンクル、テンプ)部分で構この隙間は小さいほど精度上良いのですが、小さすぎるとキシンでしまい、動力の伝達が無くなります。逆に大きすぎると、動力の伝達にムラがでて、精度上にも悪影響になります。 これら隙間の仕上がり具合が、各時計メーカーの品質、価格の差になってくるのです。

●近年、テンプ回転数は1秒間に8回転(1時間に28,800回転)が最適
更に機械式時計の精度を決定する重要な部分はエスケープメント(雁木車、アンクル、テンプ)にあります。
但し、そのほかの部品の精度も良くなければいけませんが(全舞から伝えられる動力も滑らかに無駄なく伝えられているとして)雁木車(昔の用語で家の軒の雁木に似ていた)は、次のアンクルに力を伝えると、アンクルは雁木車の回転運動から反復運動に変わります。

アンクルはその反復作用により、最後のパーツのテンプを往復回転運動させます。この往復運動はムーブメント種類によって幾つかありますが、1秒間に5回転、6回転、8回転、10回転などがあります。
現在の主流ムーブメントは8回転がほとんどです。このテンプの往復する回転角度は時計を平に置いた状態で260°~300°(全舞が一パイに巻かれた状態で)往復回転しています。この回転数と、角度によって時間精度に影響が出るのです。

実際テンプの回転数は早い程精度上は良くなるのですが、近年のムーブメントは部品の耐久性や油の保油能力などから8回転が最適と考えられています。

●テンプの回転角度・ヒゲ全舞の長さで精度に差がでる
では、何故テンプの回転角度で精度に差が出るかと言いますと、例えば、1秒間に8回転するテンプが平均280°回転すべきところを200°しか回転しないとすると、それだけ往復運動が遅くなってしまう、これは時間が遅れることになるのです。逆に回転数が350°以上になってしまうと、進んでしまいます。
更にヒゲ全舞の長さによって、時間精度に差が出ます。ヒゲ全舞は調整可能になっていますので、精度テスターで調整します。テンプの往復回転は、テンプに取り付けられたヒゲ全舞の伸び縮みの作用によって行われます。

●どんな時計にも姿勢差、位置差がでます
続いて姿勢差があります。時計を平に置いた時と、腕に付けているときの差です。平らな時に280°回転しているテンプも腕に付けているときは常に時計の位置は変化しているわけですから、どんな時計にも姿勢差、位置差がでます(高精度ムーブメント程その差は少ないのですが)なぜならば平の状態で280°回転しても、横位置では260°になる、斜めでは又変わるなどで、時間精度に影響が出ます。
これら全ての位置の調整を行ったものを、5姿勢調整、(時計を平に置いた状態、リユウズの上下位置、6時方向上下位置)と言い高級品や、クロノメーターの証明書付(各位置で平均日差+-5秒以内に調整したものなど)時計などはこれになります。

●温度差・パーツ類の経年変化等種々の影響で時計精度は決められていく
更にこれに加えて、温度による差なども影響されます。温度差はこのムーブメントに使用されている材料や油によって影響される為、温度変化の少ない工材やオイル等が使用されています。その他パーツ類の経年変化等、種々の影響が含まれて、時計精度は、決められていくのです。

●作業のコストの掛け方で時計の精度に差が出てくる
近年機械時計ムーブメントの生産は、スイスが最大の生産国になっています。そのメーカーは、一部の(ムーブメントから完成品まで自社で行っている)一貫生産の高級時計メーカー数社を除けばわずか一社がクオーツムーブメントから各種の機械ムーブメントまでの生産を行っています。このメーカーが生産したムーブメントは、世界中の各時計ブランド各社に購入されて、自社や依託アッセンブリー(組立)工場で各社独自の仕上げ工程で部品の精度を上げたり、受板に独自の模様を施したり、時間精度を上げる為の(エスケープメントの調整)などを行って完成品にします。
これらの作業のコストの掛け方で、時計の精度に差が出てくるのです。

No.3 本来あるべき姿のパワーリザーブインジケーターの使用目的は?

パワーリザーブインジケーターの使用目的としては、ゼンマイの解けてくる目安を観ることですが、インジケーターの針が0になっても実際はゼンマイが完全に解けていないようにセットされなければなりません。
従って0に近づくと精度が落ちては、意味がありません。やはりある程度の精度を保っていられるようなムーブメント精度のものにパワーリザーブインジケーターが付いていることが条件です。(安価な商品のものはアクセサリー程度と思っていた方がいいです。)現在のムーブメントに使用されているゼンマイは一杯に巻いた時と緩んできた時のトルク差を安定させる為にゼンマイの構造自体もそのように作られてありますので、精度上のムラが少なくなるようになっています。(但しある程度の高級品についてですが)基本的にゼンマイが緩んできた時に、早く巻き上げるための目安として使用されるべきものがパワーリザーブインジケーターです。
「尚、手巻時計の場合にゼンマイを巻き上げる状態がインジケーターの針で確認できますので、無理な巻き上げで、ゼンマイにダメージを与えることを防ぐ利点にもなります。」本来あるべき姿はこれなのです。

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